コロナにかかるのは偶然か?

先日、ある物理学者の本を読んでいたら、こんなことが書いてありました。

「この世界に人間が生まれてきたのは偶然。そして死んだらおしまい。」

この本はそもそも、ある女性が宇宙の研究をしている科学者に、「人間が生まれてきた意味、死ぬ意味」を聞きたくて会いに行く、という話です。

そして、「死んだらおしまいは嫌なんです。人間が生まれてきた意味を知りたい。」という女性に対して、上のような答えを返し、「その答えに人間おさまらないのはわかる。死に気持ちが動くのはわかる。だが冷静に考えたら、そのことに意味はないと自分でもわかるはずです。」というのです。

この物理学者の言っていることは、もともとは哲学者のカントが言い出したことです。

「私たちの認識は現象の世界に限られて物自体の世界には及びえない。」

たとえば、私たち人間に世界がこのように見えるのは、人間の身体の構造に依存していて、犬には犬の見え方、鳥には鳥の見え方、虫には虫の見え方、こうもりにはこうもりの見え方(?)があり、世界の本当の姿(カント用語では「物自体」)は誰にもわからない、ということです。

したがって、私たちの認識の範囲外にある、たとえば「神は存在するか?」とか「この宇宙の始まる前はどうなっていたか?」とか「死んだらどうなるか?」ということについて、理性でいくら考えても答えが出ない、むしろそれは「信仰」の問題、「何を信じるか?」の問題である、ということです。

人間の認識の及ぶ世界、いわゆる物理世界は、科学で扱える範疇であるのに対して、人間の認識の及ばない世界は、西洋では長い間、形而上学(メタフィジックス)で扱われてきました。(カントの「物自体」という用語はまぎらわしいですが物理世界ではなく目に見えない(人間が認識できない)世界を指しています)。

カントの生きた時代は、ちょうど「神」の権威が「人間」の権威に取って代わられつつある時だったので、カントは数学、自然科学の基礎づけを行うとともに、近代にふさわしい形而上学を創り出そうとしたのでしょう。

カントはこう考えます。「もしわれわれの意志が現象界における経験的事物のように単に自然因果律によって規定されつくしてしまうものであるならば、われわれは決して道徳律にしたがって行為すべきだということは生じてこない。」

たとえば、食料がわずかしかなくてお腹がすいていたら、全部自分で食べてしまうのが「物理世界の因果律」だとしたら(身体もモノですから)、となりにお腹をすかせた子どもがいたら、自分は我慢して子どもに食べさせてやるのが「人間の意志の自由」といえるでしょう。

要するに、私たちが認識する物理世界の因果には、こうした「人間の意志の自由」というものは見当たらない、ということです。当然ですよね、「人間の意志の自由」はモノではないのですから、物理の法則は当てはまらないでしょう。

「人間は行為の主体として意志の自由を持つ限り、物自体の世界、叡智界(つまり物理世界を超えた形而上学的世界)に属するといわねばならない。」

つまり、人間は単なる「物質」的存在ではない、ということです。

ということは、冒頭の物理の先生が言っているように、「人間がこの世に生まれてくるのは偶然」でも「死んだらおしまい」でもない、ということです。(物理の先生がそう言うわけもわかりますよね。物理の先生はモノの世界しか扱えないのですから。)

 

アニカでは、私たちが今、この世界で生きているのにはちゃんとした理由や意味がある、と考えます。

人生の中で起きること、誰の子どもとして生まれ、誰と出会い、誰のパートナーになり、誰と憎み合い、どんな仕事をし、どんな成功をし、どんな失敗をし、誰と結婚し、どんな子どもが生まれるか、それらには、すべて理由があり、意味があることと考えます。

こうしたことは今生のこと、物理世界のことだけ考えていたら、すべて偶然に起きることと捉えざるをえないでしょう。私たちが経験する苦しみには理由も意味もなく、肉体が亡んだら人間はそれでおしまい、輪廻転生なんてオカルトのヨタ話にすぎません。

本当にそうでしょうか? あなたは何を信じますか?


私は普段、テレビは見ないのですが、今日、築地で刺身定食を食べながらお店のテレビを見ていたら、コロナについてやっていました。

感染経路不明の患者さんが増えていて、マスクをして、こまめに消毒をしていたのにコロナにかかってしまった。どこで感染したかわからない、という患者さんがインタビューを受けていました。

科学的に考えたら、コロナにかかるのも「偶然」です。「偶然その場に居合わせたから」コロナにかかってしまった。

でも、私はそうは考えません。人が生まれるのも、誰とつき合うかも、どんな苦しみを経験するかも、そしてコロナにかかるのも、きっと理由と意味があるのです。

あなたはどう思いますか?

 

参考文献:

「科学にすがるな!宇宙と死をめぐる特別授業」佐藤文隆、艸場よしみ(著)
「カントからヘーゲルへ」岩崎武夫(著)


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