東洋の世界観を表す代表的なシンボルのひとつに太極図があります。
西洋の伝統的な世界観では、たとえば「ロード・オブ・ザ・リング」のように、善と悪が果てしない戦いを繰り広げ、最後には善が勝利する、という物語が一般的です。そういう意味では、最初に作られた「スター・ウォーズ、エピソードⅣ~Ⅵ」3部作などは、善と悪の和解を描いたきわめて異例な、東洋的な物語と言えるでしょう(あの映画が家族の和解の物語であることは、とても示唆に富んでいます。家族とはひとつの宇宙ともいえるからです)。
太極図が示している最も重要な点は、世界はポジティブとネガティブの戦いなどではなく、ポジティブとネガティブがあって世界全体を成しており、それが自然な状態である、ということです。ポジティブの中にネガティブの萌芽があり、ネガティブの中にポジティブの萌芽があり、その萌芽が成長することで、世界は常にダイナミックに動いているのです。「人間万事塞翁が馬」の話のように、良いことのなかから悪いことが生まれ、悪いことのなかから良いことが生まれ、それらは止まることなく常に変化しています。
おそらく西洋的な宗教、自己啓発、セラピーやヒーリング、コーチングなどでは、この太極図のなかの白い部分を極大化し、黒い部分を極小化することがゴールとして求められているものが多いでしょう。自分の悪いところをなくして、良いところで埋め尽くそうとするのです。
しかし、その試みは自然に反しており、時として全体のバランスを大きく崩すことがあります。なぜなら、白いところを極大化できたと思っても、黒いところは実は裏側(潜在意識)に潜って隠れただけで、決してなくなったわけではないからです。光が強ければ、闇もまた深くなる、ということです。
最近、タイガー・ウッズが大変なことになっているニュースが流れましたが、彼の父親はグリーンベレー(アメリカ陸軍特殊部隊)であり、その父親がメンタルを鍛えたので(グリーンベレーのメンタルトレーニングはコーチングによるもの)タイガー・ウッズは強い、ということが定説になっていました。しかし、顕在意識で都合のよいゴールを設定し、そのゴールの実現だけを優先してネガティブを無視していると、長い人生のなかで抑圧されたネガティブの揺り戻しが来るのは、自然の摂理として避けられないことなのかもしれません。
なので、私たちは日ごろから、がんばったら怠ける、勝ったら負ける、まじめに仕事をしたらいいかげんに遊ぶ、健康になったら病気もしてみる、良いことをしたら悪いことも欠かさずする、というポジティブとネガティブのバランスが取れた生活を心がければ、きっと穏やかに長生きができるのではないでしょうか。